■ロコモテイブシンドロームと被災地健康運動支援


◇2011年7月17.18日 第24回JCOA学会 長崎
◇パネル:「運動器リハビリテーションと健康寿命」
 ロコモテイブシンドロームと被災地健康運動支援
◇講師:佐々木整形外科麻酔科クリニック 介護老人保健施設せんだんの丘 佐々木信之
 東北福祉大学社会貢献センター予防福祉健康増進推進室 斉藤昌宏


1、はじめに、発表の機会をいただき、学会長楢林先生、座長の藤野先生、田辺先生に感謝します。演題はロコモテイブシンドロームと被災地健康運動支援です。

2、我が国では、1947年に平均寿命が男性50歳、女性54歳であったが、現在では、男性79歳、女性86歳と、急速に高齢化が進んできた。一方、心身共に自立的な状態で生存できる健康寿命は、男性72才、女性78才であり、その差である7?8年は、介護が必要となることが伺われる。

3、国民生活調査で、介護が必要となった450万人の原因をみると、最も多いのは脳卒中24.3%、認知症14%、次いで高齢による衰弱、関節疾患、骨折転倒、心疾患、パーキンソン、糖尿病、脊髄損傷となっている。運動器疾患として関節疾患、骨折転倒、脊髄損傷を合わせると24%であり、要介護の2大原因は、脳卒中と運動器疾患である。

4、運動器の加齢による影響をみると。骨では骨粗鬆症をきたし、骨折リスクが増大し脆弱性骨折が発生し,運動機能低下をきたす。患者数は腰椎骨粗鬆症が640万人、大腿骨頸部骨粗鬆症が1.070万人と推計される。筋萎縮であるサルコペニアは、30歳から始まり生涯を通じて進行する。 変形性膝関節症の患者数は2,530万人と推計される。運動器は脳によりコントロールされ、脊髄神経を介して骨格筋へ指令を出している。臨床的に問題なのは,腰部脊柱管狭窄症であり、患者数は240万人と推計される。長寿社会となり、多くの人にとって長期間、運動器を健康に保つことは難しく、これら運動器障害が複数ある人が多いので、運動器全体を診る必要がある。 移動能力低下を来し,歩けない,立ち上がれない状態となり、要支援、要介護のリスクの高い状態がロコモテイブシンドロームであり、日本語で運動器症候群という。ロコモの患者数は4,700万人と推計される。

5、ロコチェックは7つ。
 1)片足立ちで靴下がはけない。バランス力の目安です。
 2)階段を上るのに手すりが必要である。
 3)15分くらい続けて歩けない。
 4)家に中のやや重い仕事が困難である。
 5)家に中でつまずいたり滑ったりする。転倒しやすさの目安です。
 6)横断歩道を青信号で渡りきれない。
 7)2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である。
これらのロコチェックに、日常生活の中において自分自身で気がつくことが大切であり、一つでも当てはまれば、ロコモの心配がある。

6、要支援1、2を対象とし、介護予防に特化し短時間デイサービスを提供している。せんだんの丘ぷらすで、ロコチェックを行った。対象者は44名。年齢は47歳?90歳、平均75歳である。

7、項目ごとの頻度を表している。最も高かったのが、片足立ちで靴下がはけないが 73%,次いで 階段を上るのに手すりを必要とする、家で重い仕事が困難と続いている。最も低くかったのは、横断歩道を青信号で渡りきれないであった。診断率は91%である。

8、ロコモの人には、15分以上歩くことができる軽症から、座ることしかできない重症まで程度はさまざまである。

9、ロコモーショントレーニングをロコトレといい、開眼片脚カイガンカタアシ立ちを推奨している。1分間ずつ1日3回行うことにより、1時間歩くと同じ負荷が股関節に加わり、大腿骨頸部骨密度が改善し、転倒予防ともなる。

10、ロコトレ2は、スクワットであり、深呼吸のペースで5?6回、1日3回行うことで、大腿部や腰の筋力が強化される。一般には、転倒しないように、机に手をついて行い、指導の際に細かな注意事項があるので配慮したい。ロコトレに必要な要素は、足、腰の筋力、バランス力、膝や腰に負担が少ないことである。 ロコトレ3としては、ストレッチング、太極拳、スイミング等をすすめる。

11、高齢者がロコトレを継続して行うためには、誰かの支援を必要とすることが多いので、ロコモコールをすすめたい。 離れている家族からのロコモコールは効果的だし、訪問介護、配食サービス、ヤクルト、配達業者などからの声かけも高齢者の動機付けには有用と考える。

12、東日本巨大地震で地盤の破壊が3連続した様子と各地の震度である。

13、3月11日の津波は、これまで経験した明治三陸や貞観津波よりも高く長いものであり、仙台周辺の浸水域と各地の津波の高さを示しているが、仙台新港で14.4m、 女川で17.6mであった。

14、仙台市内の宅地被害と仙台駅新幹線ホームの状況である。

15、南三陸町志津川と名取市に津波が押し寄せている状況である。

16、仙台空港では駐車場にあった車が津波とともに流れている状況である。市内から空港へ向かう東部道路から撮影しているが、普段は畑や田んぼの状況である。これら医療施設の屋上を津波は超えており、甚大な被害をもたらした。

17、津波後の南三陸町志津川と仙台市荒浜であり、全てが破壊され、ガレキとなった状況である。

18、金華山から牡鹿オジカ半島をみているが、映画モーセ十戒のように海底の底が出現した。

19、想定していた宮城現沖地震と今回の地震での被害を宮城県内でみると、マグニチュードは8.0 → 9.0であり、最大震度は同じ7 である。死者数は164人を想定したが、今回は9.300人の死亡、行方不明者が未だ2.807人となっている。長期避難者は想定が16.669人だったが、実際は211.023人と多数に至った。

20、石巻と名取市の避難所の様子だが、簡単な物で区切りしての生活である」。シンガーソングライターリピート山中さんの慰問に私も同行したが、丁度、焼き肉の炊き出しが行われていた。

21、このような避難所生活では、食糧と衛生面と社会心理的環境に注目する必要があり、特に、不活動による健康障害と心的外傷症候群が大きな問題となる。 今回は深部静脈血栓症に伴う肺塞栓による死亡例は報告されていない。 廃用症候群、生活不活発病、筋肉減少症、ロコモテイブシンドローム、これらは同一の病態を表現しており、運動器では骨粗鬆症、骨格筋の萎縮、関節拘縮となり移動能力低下をきたす。 循環器系では、いわゆるエコノミークラス症候群を、精神/知能の障害では、抑うつ状態、仮性認知症を、他に、沈下性肺炎、尿路結石等と多彩である。

22、避難所における運動に関するニーズ、関係団体の支援者が提供できる内容、運動に関する知識や情報等を集約し、支援者に知らせる情報ネットワークとして、被災地健康運動支援情報ネットワーク仙台みやぎUNDAが3月31日に発足した。

23、UNDAの活動範囲は県内市町村の半分以上におよび、活動の対象者や指導内容が分かりやすくマップ表示で記載している。写真は、先週行った研修会と勾当台公園でのシニア元気あっぷ青空運動教室である。

24、2次避難所となっている川崎町と蔵王町での運動指導である。

25、大和町での講演会とロコトレの片足立ちとスクワットの様子である。

26、ロコモテイブシンドローム知っていますか?と題して、昨日行った元気/健康セミナである。 27、厚生労働省は、東日本大震災の被災県内の100か所に、孤独死、寝たきり防止を目的として、70億円の予算で、仮設住宅地に介護拠点サポートセンターの設立を指示している。 ライフサポートアドバイザーをおき、デイサービスを必ず提供するもので、県内では石巻市や岩沼市で具体化している。

28、運動の効果は、内科疾患の予防や改善、また、精神面でもストレス除去や達成感等多岐にわたることが知られている。市民の自覚症状として多い運動器の訴えである、腰痛、肩こり、関節痛の予防と関節機能改善、さらに、骨粗鬆症や転倒の予防ともなる。

29、健康寿命を長くする対策は、老化のスピードを遅らせ、心身機能を改善することが必要である。立って歩くために運動が大切であり、転倒骨折のリスク要因や予防のための対応が求められ、自らロコチェックし、ロコモーショントレーニングをすすめる。 さらに、被災地に於いては、避難所や仮設住宅での生活が長期に及ぶので、引き続きロコモテイブシンドロームの啓発活動が重要である。

30、ご清聴ありがとうございました。

講演の時の資料はこちらから → ロコモテイブシンドロームと被災地健康運動支援

  書式はパワーポイント(ppt) で 容量は208MBと大きくなっております。
  ダウンロードの際にはご注意願います

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佐々木整形外科麻酔科クリニック
佐々木信之

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